

カラテ物語 その二 後ろ蹴り 他流派
Written by: G.G. Oyama
Illustrated by: 木村僚佑
Ryou Kimura

なんとなくではあるが、後ろ蹴り様になってきたように思う。
まだまだ鋭さはないが、後ろ蹴りにはいる態勢のとき身体の硬さいくらか取れて、それなりにすなおに入れるように感じてきた。
先生が稽古中に「オッ、いい線いっているぞ!」と言ってくれた。
エッ!と思った後に嬉しさが込み上げてきた。胸の中が熱くなってきた。
そばにいたツトム先輩が「僕はどうなんですか?」と先生の顔を覗くように見る。
先生は「ウ~ン、ま~、頑張れ、希望を捨てずに行こう・・・ガハ、ガハハ」であった。相手をおいて、捨て技を使い、後ろ蹴りにはいる態勢を何度も稽古する。
ツトム先輩の捨て技から後ろ蹴りにはいる態勢が大きすぎ、“今から、後ろ蹴りいきますよう~”と相手に教えているよう見える。簡単に相手に読まれてしまうようだ。
先生が冗談で「オイ、今日のうちに蹴れよ・・・」ツトム先輩「何とか今夜まで蹴りを終わらせます」
「頑張れツトム、ふれ~ふれ~、ツトム!」 ガハハと笑っていた。
思わず僕も笑いを漏らしてしまった。
後ろ蹴りの稽古はホントむずかしく感じるがチャレンジし甲斐がある。
稽古の後「先生ちょっと質問あるんですが、良いですか」とツトム先輩と、狭くて細くて小さい先生の事務所をのぞいた。
「なんだ、オイ忙しいんだヨ、また振られたのか?恋の相談は駄目、ガハハ」である。ツトム先輩「先生僕は振った事は沢山ありますが、振られたことはまだありません。先生と違いますヨ」凄いことを平気な顔で言いだしたので、思わず先生の顔色を窺った。
先生はツトム先輩の顔をみながらまた大きな口を開けてガハハ、ガハハである。
僕は思わず、凄い自信だな~と、ツトム先輩の顔を見つめてしまった。
「カラテの質門しか聞かないぞ」と先生が言う。
「僕の学校でカラテ部がありまして誘われているんですが、チョット違う流派なので考えているんです」
「オゥ、M校か、あそかはM大学の付属高校だったな、M大は伝統派でかなり名前が通っているらしい、簡単に言うといろいろと経験することは良い事なんだが、武蔵はまだカラテの稽古始めたばかりだから今伝統派に入ると変な癖と言うか、違う構えや足の運びを稽古しなければいけなくなるので、こんがらってしまうかもしれないぞ・・・・。ウ~ン、難しいな・・・・。学校の授業、宿題、部活、道場の稽古となると時間的にこの道場に通うことが難しくなるな。もしも俺が武蔵の立場だったら部活はそれとない、あまり時間に束縛されない部を選ぶヨ」
「先生、ワールド大山と伝統派のカラテはどこが違うんですか?」
「簡単には言えないが、結構大きく違うよ。まず構え、足の運びが大きく違う。それにその構えや足の運びから当然多用する技も違った傾向を見せる。もちろん個人差はあるが一般的に言って違ってる」「・・・オス」
「伝統派は直線の技を多く使う。試合はいかに素早く技をきまるかが勝敗の大きな鍵になるから、直線の技を多用することが多い。とうぜん普段の稽古時間もそこに重きを置くようになると思う。身体のひねりや、左右に変化させる動きは直線の動きに対して呼吸が僅かだが劣る。もちろんこれも個人差があるが一般的に見て言えることである。
順突き、逆突き、前蹴りそれは寸止めが建前になっているからだ。回し蹴りもこなしているが、蹴り足の膝のスナップで蹴るように見える。・・・でも最近見ると伝統派の人もいろいろ変わっているように見える。かけ蹴り、後ろ回しなど使いこなす選手も見られる。これは私の師範の受け売りだが、カラテは文化だ、どうしてもその時代のいろいろな格闘技の影響を受ける。だから伝統派と言っても昔と幾らかは違う面を見せているように見える。それでも直線の技、正拳をやはり多用することは変わらないように見える。それはコントロールができるのと素早く技が出せるということだ。曲線を描く技はコントロールするのが直線の技に対して難しい」
ツトム先輩が帰り道「カラテの世界はホント深いんだな、俺ももっと真剣に稽古しないといけないな・・・」と何か意味深に悟ったように話していた。
寝る前にちらっと中矢の正拳を思い出した。
奴と果たして勝負したら負けてしまうかもしれない。
そうしたらワールド大山に恥をかかせることになるかも知れない。
でも何時か中矢と組手をするようになるのでは?と思った。
もっともっと自分の身体を練り、鍛えて、技を磨かないといけない、とぼんやり考えているうちに眠りに入った。

春の朝は華の香りが漂う。桜はもう散り始めた。朝のランニングも苦にならなくなった。走り始めてどの辺りで最初の壁が来るのかも身体が分かっていた。
息が上がり始めた時以前は歩いてしまったが、今は逆にスピードを上げて走り込む。
酸欠で、肺が破裂しそうになる。少しずつ苦しくなったときの距離を伸ばしている。
公園では相変わらずお爺さんやお婆さんが恋をしているように見える。
ほほえましい。春はみんな恋をするように見える。
僕だけ恋をしていないのか、なんとなく中崎さんの顔が浮かんできた。
エイと気合を入れる。なんでも燃えることは良いことだと思う。
腕立て伏せは今ではスタートは軽く30回、身体を慣らし、2回目は5~60回できるようになった。もう直ぐ一発で100回出来るかもしれない。
勝手な想像かも知れないが、前蹴上も調子に乗ると蹴り足の音がうなる様に聞こえる。
僕が蹴りはじめて調子に乗ってくると、いつものお爺さんが眼を細めて頷く。
左右の回し蹴りも大きく踏み込むようにして、高く蹴る。
踏み込んだ瞬間、蹴り足の膝を脇腹に抱える様にしてタメをつくる。
両腕の振りを大きく使い蹴り足のスピードを意識して高める。
フン、フンと短い気合いを、かけながら蹴り込む。
両足100本は軽く蹴れるようになった。何となくではあるが自信が湧いてくる。
あの日から2~3日過ぎたが、中矢は何も言ってこなかった。
おかしいな~、と思っていた4日目の昼休み中矢が話しかけてきた。
「オイ、武蔵ちょっと立ってみな、うごくなよ」といいながら中矢がサット後ろに下がり「おりゃー」と気合を入れて僕の顔面に正拳を繰り出してきた。
ニヤッとした顔を見せて「お前もカラテ部にはいったら俺みたいに強くなれるよ、そろそろ入部しろや、~なぁ」この野郎と思った、瞬間思わず「俺もカラテ稽古してるんだ」と口から出てしまった。
中矢が呆れたような顔つきを見せながら、バカにした感じで「なにー、お前がカラテの稽古している。マジかよ!・・・ 何処の流派だ?」
「家の近所にある道場でワールド大山空手」
「なんだ、それ、ワールド大山空手、そんなカラテの流派聞いたことがないな」
僕は中矢の嘲笑した顔をみながら、内心ここで中矢と勝負しないといけないのかと思つたが、出来るだけ平静をたもって「僕の先生の師範は昔極真会にいてそこから独立したらしい」極真会と言ったとき中矢の顔がチラッと変わった。
「極真会、大山ね、ふ~ン、どのくらい稽古しているんだ?」
「まだ初めて一年たっていないけど、続けているんだ」
「そうか、お前回し蹴り蹴れるか?ちょっと蹴ってみな、俺が受けてやる」
中矢が下がりながら、両足を大きく開き左足前の騎馬立ちに構えた。
両手も胸のところにおき「ほれ、コイ、コイ」と軽くステップをしながら構える。
構えが両足を広くとるので中矢の顔面が僕の胸の高さにあった。
なんか簡単に蹴れる高さに汚れたサッカーのボールのような坊主頭がある。
どうしようか、迷ったが左足を前に出しながら、僕は軽く右足の回し蹴りを蹴った。
中矢が腕で受けるかと思ったら後ろに下がったので、蹴り足の右足が流れてしまった。

その瞬間中矢が「エィ~、イァヤ~」と大袈裟に格好つけた気合をかけながら僕の後頭部を右の正拳で軽く突いてきた。
“ナンダ~、お前~”と思って中矢を見ると、笑いながら「まだお前は駄目だ、そんな蹴りじゃ、カラテの蹴りと言えないよ、わるい事は言わない、強くなるにはうちの部の流派に入ることだ、お前カラテの稽古、好きなんだろう?」
この野郎と思ったが、我慢した。
「お前組手やったことあるのか?」「あるヨ」と返事を返す。
「チョット構えてみろ」僕が黙って、どうしようか迷っていると、中矢が「さっあ、構えてみろよ」肩を押してきたので、黙って右足を後ろに引いて左半身になった。
左半身と言っても僕は棒立ちに、立っているだけだった。
中矢が「そんな構えじゃいつでも顔面に正拳を貰うよ、いいか」と言いながら睨む。
中矢がチョン、チョンと跳ぶように足の運びを使いだす。
こいつ本気か、と思ったとき、中矢の正拳が顔の正面に飛んできた。
「オ~イリャ~!」と変な気どった気合を入れて、昔みた映画、ブルースリーみたいな恰好をしながら首をふっていた。
カッと血が頭にきたが、喧嘩になるとまずいので無表情で中矢を見つめた。
「どうした~、大郷、なにボケてるんだ」
「イヤ感心しているんだヨ、速いネ、君の突き。そろそろ昼休み終わりだヨ。この続き又にしよう」
この野郎!俺の回し蹴りホントに頭に決めてやろうか~、と思った。

続く
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