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カラテ物語 

Written by:  G.G. Oyama

Illustrated by:  木村僚佑

                           Ryou Kimura

第 3 章 審査

稽古を始めて三ヶ月が過ぎるころなんとなくではあるが、教典第一巻の内容が頭の中でなく、身体で分かってきたように感じた。

基本の立、三戦立、前屈立ち、組手の立、その移動稽古も自分では無理なく動けるようになったと思った。正拳、膝蹴り、前蹴り、回し蹴りも、スピードも力も入っているように感じ、そのコンビネーションも他の白帯の人より上手いのではと勝手に思った。

白帯の型、基本その一、相手を置いて応用する稽古でも、正拳から膝蹴り、前蹴りから回し蹴りの技の流れも足の運びをつけて動けるようになった。

特に右の回し蹴りは先生に褒められて自信がついてきた。

他のブルーや黄色帯の人と比べても負けてないのではと、ひそかに自惚れていた。

 

次のレベルの技を稽古したいと思いま始めていたとき、道場の壁に昇級審査の日程が貼ってあった。稽古が終わった後、先生に審査のことを聞く。

審査は春夏秋冬の年4回あり、それぞれの級の教典1~4をマスターしたときに受けると良いと説明してくれた。

先生に「僕は受けられますか?」と聞くと「タケゾウは悪い癖もないし、結構いい感じで教典1を理解しているようなので受ける資格はあるよ、でも最後に決めるのは自分だぞ」と言ってくれた。胸の中に気合が湧き上がってくる感じがした。

その晩母親に審査のことを話す。

母親が「タケゾウ自信はあるの?」と言ってきたので、先生に悪い癖がないことや、右の回し蹴りを褒められたことを話すと、母親もエキサイトして勧めてくれた。

 

審査の日、日曜日は快晴であった。朝から陽射しが強く、昼近くになると気温は夏のように熱く感じた。僕は朝から緊張気味で食欲もなかったが、無理して食べたが何の味もしなかった。家を出る前にもういちど教典1を読み返す。

真太郎先生が実技だけでなく教典の内容も質問すると言っていた。

文字は眼に入ってくるのだが内容が頭の中を空回りしてしまい集中できなかった。

道場に12時半ごろ着いた。道場の中も外も人でごった返していた。

すでに少年部の生徒や、一般部の人も道着に着替えてそれぞれ身体をならしていた。

そんな中に今まで見たことない人が混じっていた。

髪の毛をポニーテールにまとめ細面の顔に大きな瞳の中崎久美子さんが少年部の生徒に基本技を指導していた。凛々しく見える。

幼年部、少年部を審査が終わりいよいよ僕たちの一般部が始まる。

身体が固く感じたが基本技が始まるころ、突きや蹴りに意識して気合を大きく入れると身体の硬さが何となくほぐれてくる様になった。

移動稽古から型に入りその応用を上級者の人に試すとき、今まで見た事がなかった僕と同じ年頃の黒帯が前に立った。

きっと年はそんなに差がないが、黒帯を締めているので先輩である。

いくらか茶髪の毛が長く耳の後ろのほうまで伸ばし、その長髪がにあっていた。

目鼻立ちのはっきりしたイケメンで身長も僕より頭一つぐらい高かった。

視線が合う。なぜか僕はドキッとしたが相手の子は無表情で僕を見下ろしていた。

傲慢な奴だと思ったがじっと見られると僕の身体が自然に固くなってしまった。

相手の締めた黒帯と自信あふれる静かな佇まいに僕は完全に貫禄負けしてしまった。

まだ先生の指令を受けていないのに正直に言って焦りが出た。

審査を受ける白帯が僕を含めて3人立った。

前に立った黒帯と茶帯の人に“イチ、ニ”のテンポで攻撃をすることになった。

捨て技、決め技のコンビネーションを先生が見る。

「初め」の号令で僕はすぐに、力を入れて自信のある右の回し蹴りを出した。

相手の黒帯はすーっと左にちょっと変わりながら簡単に受ける。

無表情で冷たい視線を向けている。

僕は焦ってまた右の回し蹴りを出す。

相手は僕の蹴りに合わして前に出てきて間合をつぶし「ホレホレもっと動いて変化をつけないと駄目だ」と言ってきた。約2分間が長く感じ汗がどっと出る。

次に先生が前蹴り回し蹴りをお互いに蹴りあうようにと指示してきた。

先に黒帯、茶帯の人が蹴り、その蹴り技に合わして審査を受ける白帯が蹴り返す。

「始め」の合図で黒帯の人が上体、肩を振りながら前後左右に動き出す。

なんの蹴りが来るか、その動きに惑わされて全く分からなくなった。

眼が見えないような、昼から一変に夜になったように道場の中が激変した。

焦っている僕の頭に“コッン”と回し蹴りが飛んでくる。ふらっとする。

何とか構えを戻すと今度は水月に“ブス”と前蹴りが来る。

思わず「ウッ」と息が漏れる。

「竜馬、コントロール」と先生の声が遠く方から聞こえる。

「ヤメーイ」の号令で向かい合う。息があがってしまい胸が苦しかった。

前に立った黒帯は無表情の顔つきに戻ったが、その中に冷たい笑いが僅かに浮かんだ。

悔しかったが、正直に言って手も足も出なかった。

 

エキサイトしていたカラテの世界が真っ暗になったように感じる。

外を見ると母親と視線が合う。優しい母親の微笑が僕をよけい惨めな気持ちに浸した。

審査が終わって疲れがどっと出た。

帰り支度をしていると、先生が「タケゾウ今日は良かったぞ・・・」と言いながら僕の頭を揺さぶってきた。ちっとも嬉しくなかった。

道場の端に中崎久美子さんとあの黒帯が笑いながら楽しそうに話しているのが見えた。

彼女は僕のガールフレンドでもないのに抑えられないような嫉妬心にかられた。

母親と黙って歩き出す。

その晩食事の時に母親が「タケゾウ今日は頑張ったね。良かったよ。カラテの稽古が面白くなってきたんでしょう」と急に話し始めた。

僕は少し黙っていた。正直に言って審査を受ける前はカラテ道の世界が輝いていた。

僕にもできる武道があった。

そんな発見に喜びを隠せなかったし、僕でも強くなれると軽く考えていた。

あの黒帯の人と組んだ後、カラテの世界が全く違って見えてきた。

なんとなく手の届かない遠い世界に思えてきた。

でもそんな僕の心の底を母親には言えなかった。

ただ黙って、なんと返事をしていいか迷っていると、母親が僕のそんな気持ちを察したのか突然あの黒帯の人の話を始めた。

「タケゾウ最後にお前と組んだあの黒帯の子、先生に聞いたら江古田の道場生で名前を滝竜馬というだって。カラテの稽古を始めてもう5年になるらしいよ」

「・・・」「今高校一年生だって、小学6年生の時から始めたらしヨ」

「・・・・」僕は黙って聞いていた。

「タケゾウはまだ稽古はじめて3ヶ月ぐらいだよね、・・・5年と3ヶ月ではたいへんな違いだと思うのよ」」

「・・・うん、でも稽古時間だけじゃなくて才能も全然違うような気がした」

母親が僕を慰めてくれているのは分かっていたし、あの黒帯が僕より稽古を長くしていることも分かっているが、それでも今日のみじめな経験は消えなかった。

「・・・そうか才能が違うと思っているの、母さんはね才能はそんなに違いがないと思うのよ。これは亡くなった父さんが言っていた事なだけど、才能とか器用さとかは武道の世界にはあまり関係ないだって」

突然父親の話を始めたので胸がドキッと音を立てた。

「タケゾウ、お父さんがね、お前がなにかの武道、稽古を始めたら、私のカラテ稽古日誌を見せてくれと、生前私に言い残していったの」

「エッ!」僕は驚いて母親の顔を見た。

「お父さんはね、子供のころからカラテと柔道を稽古していたのよ」

父親は僕が5歳のころから癌との闘病生活を強いられていたので父親がカラテ家であったとは想像もできなかった。稽古をしている姿も見た事がなかった。

僕の記憶にある父親はいつも静かで、おおらかな人だった。

想像もできないほど激痛の苦しみの中、僕を見るときはいつも微笑を消さなかった。

「お父さんの日誌きっとタケゾウの参考になるかも知れないよ、読んでみる」

僕はなんとなく父親が僕に何かを期待をしているようなきがして、気分が重くなった。

でも母親と二人だけの生活、母親を悲しませてはいけないと思った。

「後で時間見つけて読んでみるよ」と答えるのがやっとだった。

「お父さんは、日誌だけでなく宮本武蔵の五輪書も読んでほしいと言い残しているの」

と母親が続けた。「五輪書は今のタケゾウには理解しにくいと思うけど、何時もそばに置いて読むといい、分かっても分からなくても偉大な本だから読むこと。・・凄いこと言うね、お父さん。優しそうでいて本当はものすごく頑固だったのよ」

僕はただ黙ってきいていたが、母親の話が重く僕の肩にのしかかってきた。

ベットに入ってもなかなか寝付かれなかった。

次の日学校から帰ると僕の机の上に父親の日誌と古い表紙の五輪書が置いてあった。

父親の日誌は大学ノートだった。表紙に稽古日誌と大きく書かれてあり、その下に大郷助之進と名前が記されてあった。なんとなく胸が騒いだ。

何か秘密の本を開くような気持にさせられる。最初のページを開く。

0月0日

タケゾウ、どんなに科学技術が発達しても武道は我々人間の生活に必要な文化と私は信じる。頭脳がより発達し精神的な話が発展しても、頭と心を支え宿す身体がなくては話にならない。すべての基になる健康を鍛え練る武道は世界に誇れる日本の文化と思う。君がカラテ道の世界に入ることを願います。もちろん君が決める事です。実現したら素晴らしく、幸福なニュースです。健康が全ての基です。

難しい前置きはこれぐらいでよす。君に伝えたい話をこの日誌に書き残します。

 

第一に、指導と稽古をしている先生、師範のカラテの対する情熱を身体で感じ、自分のものとすること。先生、師範に情熱がなかったらその道場をやめる事。

第二に、稽古は頭から入るな、理論、理屈をこねないで、常に汗を流す。黙って突いて蹴って、受けろ・・・稽古の中で自分の身体と先ず対話をする。その先に道が大きく開ける。忘れるな!

第三に、失敗、間違い、負けることを怖がるな。肝心なことは常に、前に、まえに一歩でもいいから出る事、時として勝利や豊かさは、驕りを誘い、感謝を忘れさせ、人間を堕落させ、弱くする。負けて、倒れて、悔しい思いをして、立ち上がり励む。そこから、さらに強くなる。人間は神様ではない。忘れるな!励め!自分にチャレンジしろ!

 

ちょっと気合が入りすぎたようだ。意識が遠くなってきた。今日はここでペンを置く。

病室の小さな窓から青空が見える。もう何十年も見てきた青空が、今朝は眼に染み入るように澄んで美しく見える。ゆっくりと流れる柔らかそうな白い雲、心がなごむ、今日の命に感謝である。

タケゾウ忘れるな、命があることは素晴らしいことなのだ。

 

五輪書“地の巻・・・鍛錬なくは及びかたき所也”・・・能々鍛錬有べき物

宮本武蔵がなぜ繰り返し、繰り返しこのように書き記しているか考えてみる事。

タケゾウ、励め。

 

僕は父親の日誌を読んでいるうちに涙が流れてしまった。

父親の愛情を強く感じた。

「ヨシ、稽古をしよう」と心の底から決心が湧いてきた。

僕はまだ空手道の入り口に立っただけなのだ。竜馬に必ず追いつく。

続く