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カラテ物語 

Written by:  G.G. Oyama

Illustrated by:  木村僚佑

                           Ryou Kimura

第 4 章 得意技

翌週に道場に出ると、審査結果が貼ってあった。僕は8級の青帯に合格していた。

なんとなくではあるが嬉しかった。

審査結果を見ていると隣から「オウ、8級か、よかったな」と突然声をかけられた。

道場でよく見る人で、たしか名前を斎藤ツトムという人だった。

ツトムさんは高校2年生なので、僕の先輩になる。

ツトム先輩はちょっと太り気味な身体で良く喋り、お椀の様な丸い顔に大きめな目がいつも忙しく動いて、何か悪戯を探しているような、愛嬌のある人である。

稽古前と稽古後に元気が出る人で、稽古中はあまり気合が入らないような人だった。

先生からいつも「ツトム気合だ!気合…」なんて怒られていた。

先生が「オイ、ツトム愛の鞭が、ほしいのか?」と言って竹刀でマットを叩いた時。

ツトム先輩が「先生、僕は両親の海より深い愛情、また大空よりも広い愛情で毎日生活しおります、愛の鞭は要りません。「オス」なんて落語みたいな受け答えを平気でする。

~ちょっと変わった人だが道場の中では人気があった。

カラテの技や動きで人気があるのでなくその人喰ったような人柄が面白い。

今まで一度も僕は話したことがなかったが、審査結果を見ながら突然話しかけられて、何って返事をしていいか、ちょっと戸惑った。

僕は斎藤ツトム先輩の名前は知っていたが向こうが僕の名前を知っているとは思わなかったので驚きである。

ツトム先輩も審査を受けていて、5級のオレンジベルトに合格していた。

自分の名前が書かれているところを指さして、ツトム先輩が僕に「もう少しで俺は黒帯だ」とちょっと太り気味なお腹をせり出して話してくる。

僕は「オス、おめでとうございます」と自然に答えた。

身長は僕とそれほど変わらないのに、上から見下ろすようにして「タケゾウも頑張れ、なんでもカラテのことなら質問して来い、教えてやるから…うん」と言ってくる。

何となく可笑しかったが、僕が笑いを我慢して「オス」と返事をする。

「ウ~オッ」とうなりながら突然、ツトム先輩さっと構えて回し蹴りを蹴る。

上段ではなく中段よりいくらか低めの蹴りだった。

蹴り終わった後、僕の顔をじぃーっと見つめる。

僕は吹き出しそうになったが、必死で堪えた。

真太郎先生が「オイ、ツトム今の蹴りうなったな~」というと、ツトム先輩「オス、危ないので道場では余り使わないようにしています」と答える真面目な顔であった。

僕は失礼と思ったが我慢できず後ろに向いて噴出した。

 

稽古前に先生から真新しい青帯をもらう。

白帯を外して青帯を締めると何か気持ち昂ってきた。今日から教典2の稽古に入る。

教典2は基本の4つの受け技と、基本の足の運び、送り足、踏み足、交差歩それに後ろ蹴りが入る。特に先生は足の運びを常に稽古するようにと話していた。

「ワールド大山カラテでは基本稽古はその技を当てるまでが稽古で、かつその技が足の運びと一体となって基本稽古が終わる」と言っていた。

空突きや、空蹴り、受けだけでの稽古ではまだ基本稽古は終わっていないと強調している。受け技の稽古に入り、上段受けで、受けた腕がどこで決める、止まるのかなかなか難しかった。受けた腕が高く流れてしまい顔面、額と開きすぎてしまう。

先生がこぶし二つの間と指導してくれた。

難しい、でも何となく新しい技の稽古は気が入る。

腰から下の相手の攻撃に対しては膝、脛で受けろと指示を受ける。

先生が相手の下段を腕で受けることも可能だが、「大切なことは自分の構え態勢を変えず、崩さずに受ける事だ」と力強く説明していた。

稽古の終わりごろ相手の回し蹴りを受ける稽古に入る。

下段が来ると自然と手が下がってしまい、顔面が空いてしまう。

タケシ先輩も先生から「お前ね~、自分の顔を自分で責任持たないとなぁ~、下段回し蹴り、ローを手で受けると君の男前の顔ががら空きになるよ。どうするの~、それ以上男前になったら外歩けないでしょう・・」というと、みんな笑いだした。

タケシ先輩が顔色も変えずに「先生僕の顔はみんな筋肉です。大丈夫です」と凄い返事をしたのでまたみんな笑いだす。

外受け、内受けはもっと難しく感じた。先生が「いっぺんに身につけようとしないで、正確に一つ一つ時間をかけて稽古すると良い」と話してくれた。

僕を含めて青帯になった人が4人いたがみんな先生の説明を真剣に聞いていた。

「“受けは攻撃だ“受ける組手で大切なことは腕だけで受けようとしないで、足の運びと結び付けて受ける事。腕だけで受けると、時として受ける組手が受けだけに終る。いいか、受けは攻撃であることを忘れずに常に頭において稽古することが肝心である。俺の話分かるか?」と先生が口から泡を飛ばしながらエキサイトして話す。

なんか難しい話に聞こえるが、みんな元気よく「オス」と答える。

青帯を締めての最初の稽古は新鮮だった。

受け技は正拳や裏拳に比べると一段と難しく感じた。

特に引手の使い方が上手くいかず、コンガらってしまうのと、上体が開いてしまった。

僕だけでなく他の青帯の人もずいぶん間違っていた。稽古が終わった後、帰り支度をしていると先生が「オイ、タケゾウ初審査の体験はどうだ?」と聞いてきた。

突然聞いてきたので面食らったが何とか「オス、難しかったです」と答える。

「ワッハ、ワッハ」と先生はいつもの様に豪快に笑いながら、「タケゾウはツトムと違っていつも安全な答えをするな、江古田の竜馬の印象はどうだ?」嫌な質問をしてきた「竜馬先輩はとても強いと感じました」と返事をする。

また先生が笑いだしながら「そう~か、竜馬は強いか…ふ~ン、それでタケゾウは竜馬にいつ頃、追いつけると思っている」ホント意地悪な質問を続けてきた。

僕はちょっと黙っていたが、ツトム先輩と眼が合う。

ツトム先輩の丸い顔の中、大きな眼に気合が浮かんだ様に見えた。

思い切って「夏休みが終わるころ、いくらか距離を、ちじめられると思っています」と答えると、先生とツトム先輩が「ウ~オ」と叫んだ。何人かの人が拍手をした。

僕は嬉しくなって、みんなと一緒に笑い出した。きっとみんな僕が冗談を言っているので笑っていると思った。でも僕の心なかは夏休みが終わるころでは無理でもいずれ竜馬先輩には必ず追いつくと言い聞かしていた。今にきっと追いついてやる。

 

着替えが終わって帰る支度をしていると、先生が「タケゾウちょっと来い」と呼ばれた。

先生の事務所は狭く、僕が入ると先生の怖い顔が目の前に来る。

先生が突然「タケゾウ強くなりたいか❓」と聞いてくる。一瞬何を先生が言っているのかわからなかった。先生がまた「タケゾウ強くなりたいか❓」と聞いてくる。

胸がドッキンとしたが「オス」と小さな声で答えた。

「お前審査の時、竜馬にいきなり右の回し蹴りで攻撃しただろう」「オス」

「竜馬に簡単に受けられた後もまた右の回し蹴りを出しただろう」「オス」

「俺がお前の右の回し蹴りを褒めたのは、ホントにいい蹴りだからだ。でもな自分の得意技、もっとも、タケゾウの右の回し蹴りはまだ得意技になっていないが、あまり使はないほうがいいんだ」

「オス、先生自分が安心してだせる技は右の回し蹴りしかないんです」

「分かっている。いいか、よく聞け、お前は左足前に構える。それはお前が右利きだからだ。自分の利き腕や利き足を力強く使えるからだ」「オス」

「強い相手や経験豊富な相手に対すると、プレシャーを感じる。自然と自分の頼る技、お前は右の回し蹴を出す。竜馬は最初からお前の蹴りを読んでいた。いいか俺が言っていることはお前がミスをしたと言っているんじゃない。お前の組手は誰でも一度は経験することなんだ」なんだか先生が難しい事を言っていると思ったが「オス」と返事をする。

「白帯の最初の基本一の型は捨て技、決め技の流れを稽古する型だ。いいかお前の右の回し蹴りの前に、自分の構えを大きく変えずにだせる技、例えば左の正拳か顎打ちを使い。自分の呼吸{拍子}で攻め、右の回し蹴りに続けると組手の内容が全然違ってくる。お前は竜馬に遊ばれたが、いい経験をしたんだ。忘れるな」

「オス」と答えて僕は先生に説明されて審査の時、竜馬先輩と向かい合った場面を思い出した。目線が合ったとき僕は竜馬先輩に飲まれていた。

僕は自分の課題、これから何を目指して稽古しなくてはいけないか、なんとなく先生の話を聞いていて分かってきたような気がした。

「基本と型、組手の繋がりを考えろ、タケゾウ、竜馬は稽古を始めて4年で黒帯をとったが、4年間一生懸命に稽古したわけではない。あいつは器用というか、運動神経が発達しているので呑み込みが早く、見た目は直ぐアドバンスの型をこなしていた。でも、本当に自分のものにしているか、どうかは大きな疑問なんだ」僕は先生の言わんとしていることが今度は何だか分からなかった。でも「オス」と返事をする。

「タケゾウはそれなりの器用さがるが、竜馬と比べると大きな差がある」なんか今度は先生に馬鹿にされているような気がしてきた。

僕が顔をちょっとひねって「オ~ス」と答えると。

先生は豪華に笑い出しながら「お前のことを馬鹿にしているんじゃないぞ、俺はお前が竜馬との対戦で経験したことはこの先必ずいい結果になるから頑張れと言いたいのだ。先生は口下手だからちょっと説明が長くなりすぎたようだ。結論は頑張れだ。ワッハワッハ・・・」と大口を開けて先生の話が終わった。

僕は先生には失礼と思ったが、やっぱり先生は学問が苦手の人の様に感じてしまった。きっと先生は数学だけでなく国語も駄目で得意な科目は体育だけ・・・と思った。

でも先生は、カラテのことに関しては博士の様に思えた。

道場の外に出ると、ツトム先輩が僕を待っててくれた。

「タケゾウ、先生になに言われたんだ?」

「頑張れって言われました」「ずいぶんと長かったじゃないか?」

「オス、いろいろ話してくれたのですが、結論は頑張れでした」

先生が得意技の前の捨て技を身につけろ、といった言葉が胸に残っていたがツトム先輩に説明しても話が長くなりそうなのでやめた。

ツトム先輩もなんとなく先生と同じようにあまり勉強ができるような人には見えなかった。話し方はきっと先生より上手いかも知れないが黙っていた。

ツトム先輩が「なに~、そうか・・・先生は最強だが、もしかして頭の中はスカスカかもしれないな、アッお前笑ったな。内緒だぞ、いいか先生に言ったら必殺回し蹴り喰らわすからな」ツトム先輩は自分の失言に気が付いて慌てて僕を睨んできた。

「オス、分かってます」全く先生もツトム先輩も同じように思えた。

東武練馬の駅までの道はサラリーマンや学生、主婦の人などで混んでいた。

行きかう人を避けながら、先生が器用と不器用のこと、基本の型の意味、僕の右の回し蹴りはまだ得意技になっていない…と言われた事が頭に浮かんできた。

どうしたら右の回し蹴りが得意技になるんだろう、と考えた。

続く