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カラテ物語 

Written by:  G.G. Oyama

Illustrated by:  木村僚佑

                           Ryou Kimura

第 9 章 JAPAN CUP

「~そうか、キレたのか、それで正拳が出てしまったんだ。ふ~ン、人は見かけによらないって言うが本当なんだな。タケゾウが切れたか、ふ~ン・・・・。

「・・・・」

「もしもお前が突きを出していなかったら、どうなった?」

「オス、僕は投げ飛ばされていたとおもいます。前に何度も慎吾に投げられました。

きっと周りにいたクラスメートにも笑われたと思います」

「そうなると、お前の人生に深い傷がつくな。正当防衛と言えるかどうか、難しいところだが、先に手を出してきたのは、その慎吾という奴なんだ」

「オス、慎吾は柔道の段もちで、以前にも何回か苛められています。クラスで一番威張っている奴で、公次もその取り巻きです」

「誰も、その慎吾という奴に注意をしないのか?」

「みんな怖がってしません。先生にも後で仕返しが怖いので黙っています。僕も言えませんでした。~アッ、中崎久美子さんが一度僕が投げられるところ助けてくれました」

「ホウ~、久美子が注意したのか。そうか!久美子に助けられた事があるか、ふ~ん、あいつ虫も殺さない様な顔しているが、凄い気が強いからな、美人や頭のいい女は一般的に言って気性が激しいからな、俺も美人に追い駆けられるから注意をしてるんだ」

「・・・・!?」

「まぁ~、これから注意するんだな、とにかく稽古に励め、実力が付いてくると自然と喧嘩などバカらしくなってくる。結果が見えるようになるだぁ」

先生の言う通リ僕に実力が付いてくれば、慎吾や公次がチョッカイを出してきても、笑って見過ごすことが出来るかもしれない。

そのレベルまで行くには相当時間がかかる様な気がした。

「中崎さんがどう思っているか、ちょっと気にかかります」と聞くと。

「久美子の事なら心配するな、もしかしてタケゾウの事見直すかも知れないぞ」と言って何時もの様に口を大きく開けて、ガッハハと笑い出した。

大きな口を開けて笑っている先生の顔を見ながら、先生には悩みがないのだろうか、どうしたら先生のように単純に全ての事を考えることが出来るか、ホント羨ましく思った。

先生は朝起きてカラテ、昼もカラテ、夜になってもカラテ、カラテだけの世界に生きているようだ、ちょっと僕に考えられない生活に思える。

ツトム先輩が先生は日大芸術学部を卒業していると言っていた。

芸術とカラテがどこで結ばれたのどろうか英語では、カラテのことをマシャルアーツと言うらしい。

アーツは芸術なのかもしれない。

でも先生と話が出来て動揺していた気持ちが落ち着いた。

学校から直接道場に来たのは正解だった。夜の稽古に来ますと言って道場出る。

 

家に帰りスナックを食べ、受験の問題集を開くがやっぱり気が入らない。

中崎さんの事や慎吾を殴ったときの感触が両手に残っているように感じて、問題集を開いても考えて解答をする気にならない。

先生は心配するなと言っていたが、なんとなく気になる。

夕方そろそろ道場に行こうと思っていたとき、携帯にツトム先輩からメールが来る。

「オイ、タケゾウ、聞いたぞ、お前なかなかやるな~、学校で喧嘩するように見えないが、見直したぞ、俺も稽古に出るからお前も必ず稽古に来い、詳しく聞かせろ」

僕はこんなに早くニュースが広がったので驚いた。

 

道場に入る前はちょっと緊張したが、普段と変わらない顔つきで「オス」と言えた。

先生が何もなかったような顔つきで「オス」と言ってくれたので助かった。

稽古が始まっても中崎さんとツトム先輩の顔が見えなかった。

あれ~と思った時、二人が遅れて道場に入ってきた。

中崎さんの顔を見てドッキとする。

思わず先生の顔を見るが、いつもと変わらに表情をしている。

ツトム先輩がなぜか稽古中ニヤニヤしていた。

「オイ、ツトムなにそんなに嬉しい顔をしているだぁ、なんか良いことあったのか?」と先生が聞くと、ツトム先輩顔を赤くして「オス、アァ、何もありません」と答えた。

先生は道場内のことはなにもかも見透かしているように思った。

基本稽古や移動稽古は、なかなか技や動きに集中できなかった。

「気合いが足りない」と先生に竹刀で尻を叩かれる。

「タケゾウ声を出せ、気合いを入れろ、気合いを入れないと雑念が入る。なに考えているだぁ、お前の身体は道場の中だ、お前の気持ちも体な中に入れろ、外に遊びに出すな!」僕は大きな声で「オス」と返事をする。

そこからは技や動きに気合を入れた。いつもより声も大きく出した。

気合いを大きく入れると、中崎さんも慎吾もみんな消えた。

先生が「声は勢、勢は力、力は勝利!」とみんなに気合を入れる。

 

アームガードを使って、突きと蹴りの稽古に入る。僕は加藤先輩と組む。加藤先輩は二段でときどき先生の代わりに指導もしてくれる。歳は32~3歳で温厚な人。

以前極真カラテを稽古していたとツトム先輩にきいたことがある。

「大会が近いから、まず自分の得意技を絞って稽古しろ。大会は限られた時間内に自分の力を出し切るんだ。あの技この技なんて考える時間はない。それと相手の気合に押されて萎縮したり迷ってる時間もない。自分の得意技を生かすだ。得意技を決め技に使い、つなぎ技に使い、捨て技にも使い切る。得意技がどれだけ鍛えて、練れてるかでそいつのカラテの実力が読める。三セット自分の得意技をどう使いこなすか、受ける相手に自分の技、動きを先に言って受けてもらえ。それ、いくぞ~構えて、はじめ~!」

いつもように先生の叱咤が飛ぶ。

 

加藤先輩が「右の回し蹴りからいこう」と僕に言ってくる。

道場の先輩達は僕の得意技が右の回し蹴りであることを知っているようだった。

左半身の構えからゆっくりと蹴る。

先輩が「上体、肩両手を柔らかく使え、構えた前の左手で相手を牽制する。忘れるな」

10本蹴った後から「ハッ」とした呼吸から蹴れと指導を受ける。

「ハッ」としたタイミングで蹴るには、その前の構えに掛かっている。

構えに力みがでたり、気負いが出ると蹴りが遅くなる。

「ハイハイ・・・」と小さく声を出し、自分の身体にリズムを乗せろ。

先輩の言いう通りに動きながら蹴りを出す。

「悪くないぞ、いい調子だ、ホレホレ・・・」僕は完全に中崎さんも、慎吾も忘れた。自分の回し蹴りにドンドン入って行った。アッ、という間に2セットが終わる。

最後の三セット目、先輩が「お前の右の回し蹴りを捨て技に使い、打ち技、突き技で相手の懐に入れ、そこから変化して又得意技の右の回し蹴りに戻れ・・・いいかいくぞ!」僕は今まで以上にエキサイトした気持ちになった。

ちらっと、ニキビでいっぱいの慎吾の顔が浮かんだが、直ぐに竜馬先輩が前に現れた。僕は竜馬先輩をイメージしながら身体全体に気合を入れて蹴り続けた。

加藤先輩が「ヨシヨシ・・いいぞ、ホレホレ・・・さ~こい」と励ましてくれた。

稽古の後、ツトム先輩と道場を出るとき中崎さんも一緒になった。

ツトム先輩が「タケゾウ、聞かせろ、お前の初武勇伝」と僕の顔を覗き込む。

「あんまり覚えてないんです」と僕が言いうと。

「おまえフザケルナよ~、お前の最初の喧嘩だぞ、もったいぶらないで話せよ」

「先輩ホントにあまり覚えてないんです」と言うと、中崎さんが話始めた。

「あの時タケゾウ君の顔、真っ青だったわ、慎吾君に突きが入った後、顔色が赤く見えて膝蹴りが出たときは今日の稽古中の顔つきみたいに気合が入っていたわ」

エッ、と思わず中崎さんの顔を見る。

キラキラ輝いてる大きな瞳には優しさが溢れているようだった。僕は安心した。

中崎さんが僕のことを稽古中に見ていた、と言った言葉が胸の中に響いた。

ツトム先輩が「今度なんか学校で問題があったら俺に言え、直ぐ始末してやるから」と言いながら胸を張る。

僕がすぐに「オス」と真面目に返事をする。

中崎さんが呆れた顔つきでツトム先輩を見ながら僕に笑いかけてきた。

「タケゾウ君なんか夏休み前と全然違う感じ。どんな稽古していたの?」と聞いてきた。僕はなぜかツトム先輩の顔を見ながら、「朝ランニングと柔軟ぐらい」と答える。

ツトム先輩が、「そう言えば、タケゾウなんか身体が大きくなったように見えるな、それにチョッと締まっても見えるな」僕は照れて黙っていた。

「タケゾウ君どこをランニングしているの?」と中崎さん。

「今も朝ランニングしているのか?」とツトム先輩も聞いてくる。

何となく話しにくかったが「家から城北公園まで軽く走っています」と答える。

腕立て伏せやスクワットその他のことは黙っていた。

「俺も朝、走ろうかな、全日本が近いし」とツトム先輩が両腕を振る。

中崎さんが僕の肩を軽く叩きながら「私の家から城北公園まで歩いて20分ぐらい、ランニングするには丁度いい距離かも、タケゾウ君いつも朝何時に出るの?」

僕はドキッとした。思わず中崎さんとツトム先輩を見ながら「朝5時ごろ」と言う。

ツトム先輩が「朝5時、俺はまだ夢の中だ」僕は何となくホッとする。

中崎さんが「早いんだ、5時ね~、私も頑張って走ろうかな~」と僕をいたずらっぽく見つめながら言ってくる。綺麗な笑顔が僕の眼の前にあった。

 

続く

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