

カラテ物語
Written by: G.G. Oyama
Illustrated by: 木村僚佑
Ryou Kimura
第 10 章 JAPAN CUP 2
昨晩はちょっと寝つきが悪かった。慎吾や中崎さん、竜馬先輩のことが頭に浮かんでは消え,また浮かんできたりしてなかなか寝付かれなかった。
それでも今朝はやはり5時ちょっと前に目が覚めた。
もう目覚ましを使わなくても起きられるようになった。
母親も僕の朝のランニングが分かってるのか、ごそごそと音を立てても寝ている。
軽く準備運動をこなし、走りだす。徐々にスピード上げる。
冷たい風が音を立てる様に過ぎる。身体が熱くなってくる。調子が上がる。
息が上がってくる。胸が苦しくなる。
先生の言葉「息が上がってからが本当に勝負が始まる」気合を入れる。
左右の風景が飛び去る。城北公園が見えてくる。もっとスピードを挙げる。酸欠になる。
城北公園に着いた。軽く柔軟をやり先ず腕立て伏せから始める。
セミの鳴き声が聞こえるが、何となく弱々しい。
季節が変わろうとしているのか、セミの声よりも虫の鳴き声の方が力強い。
心の隅でもしかしたら中崎さんが来るのではと思ったが、相変わらずお爺さんやお婆さんばかりが僕を珍しがって見ている。
もしかして、僕の腕立て伏せや腹筋を見ながら自分たちの昔を思い出しているのかもしれない。はやく大人になりたい。ときどきそんな風に思う。
前蹴上、横蹴上、うさぎ跳び、両足の腿がパンパンになる。
強くなっている証かもしれない。
軽くイメージをして回し蹴りを使ったコンビネーションをつくってみる。
最初は突き技から入り上段回し蹴り。いつものお決まりのパターンである。
直ぐ決め技に考える。
ソロソロ帰る時間、水を飲んでいると、中崎さんが息を切らして走ってきた。
黒いショートパンツ、スポーツブラの上に白いタンクトップ、髪の毛をポニーテールにまとめ、額から首筋に汗が光っていた。
眩しくて眼のやり場に困ってしまった。
中崎さんは僕の前で屈んで両手を膝に当てて息を整えていた。
僕は何も言えずただ見とれていた。
綺麗に整った顔をゆがめて「くるし~い、きつ~い」と荒い息を漏らしている。
「目覚ましかけておいたのよ、でも又知らない内に消してしまったみたいタケゾウ君の時間に合わせておいたのに。・・・あわてて走ってきたの、あぁ~、きつ~い、毎日朝走ってるんだ。凄いね」
「毎日でもないんだ、時々サボるよ」まったくサボったことがないに、変なことを言い出してしまった。「もうメニューは、終わったの?」
「エッ、う~ん、でも付き合ってもいいよ、ここ1周すると約1キロなんだ、ランニングしたい?」
「時間だいじょうぶ?」「まだまだだいじょうぶ」僕達は軽いジョギングに出る。
「昨日、竜馬先輩にメールしたの、タケゾウ君が朝トレしている事、直ぐに竜馬先輩から、あいつは強くなるよ、と返信が来たヨ」
中崎さんの話を聞きながら僕は前から聞きたいと思っていた、中崎さんと竜馬先輩が付き合っているのか、そのことが自然に口から出た。
「中崎さんと竜馬先輩付き合っているんですか?」
「エッ、竜馬先輩、う~ん、私のこと相手にしてくれないのよ、先輩イケメンでしょう、モテモテなの、私のこと全然子供みたいに思っていて」僕は何故か胸が騒がなかった。
「そう~なんだ。竜馬先輩強いし、かっこう良いよね、なんて言うか・・・技や動きが他の先輩とちょっと違う感じがする」
「竜馬先輩は華があるのよ、同じ技を出しても全然違って見えるの」
「僕にもそう見える、でも中崎さんも技が綺麗に見えるよ」
「エッ、ウソ~、タケゾウ君うまいね」と言いながら中崎さん、止まって息を整えた。
ちょっと荒い息をしながら、僕を正面から睨むように見て「ありがと~」言ってきた。
額から汗が、細い首筋や、肩、胸へと糸のように流れて光っていた。
また、思わずどこに眼を向けていいか困った。すぐに彼女の顔から眼をそらす。
吉野桜の並木道、黄ばんだ木の葉が落ち始めていた。

その週の金曜日、道場が満杯になる。全日本大会の為か、気合いが道場に溢れていた。軽いシャドーをこなした後、二人に組んで受け返しの稽古に入る。
相手をドンドン変えて速いテンポで動く。
一人一人相手が違うので動きや技が違って出てくる。僕の好きな稽古である。
先生の叱咤が飛ぶ。「いつも言ってるが、大会は限られた時間内の試合だ、自分の組手の型を出さないといけない。あれやこれやと迷っている時間はないぞ!」
僕は右の回し蹴りを「先」の呼吸から出すことを頭において動く。
次の相手には正拳の型からはいり、右の回し蹴りに繋げる。
三番目の相手には誘って、受けて正拳から反撃し右の回し蹴り、おまけに左の前蹴りか、回し蹴りを出す動きに気持ちを集中した。
相手によってはうまく動けるときがあったが、色帯の人には間合いや、角度を潰されて、逆に突きや蹴りをもらってしまった。
とくに下段の回し蹴りの受けがまだ上手くいかない。
稽古後半に黒帯の先輩たちが白帯や中級の人を相手に、組手の型をチェックする稽古に入った。僕は竜馬先輩と組む。
竜馬先輩が僕の動きを読みながらいろいろな角度から下段を攻めてくる。
僕は先輩が下段を狙っていると分かるのだが、半分以上その蹴りをもらってしまった。
途中、「俺の下段を貰うのは、タケゾウお前の構え、重心が前足に乗っているからどうしても受けのタイミングが遅くなるんだ。構えは基本通リ重心を金的の上、ヘソの下、丹田に置け。突かなきゃいけない、蹴らなきゃいけないと攻めることばかり頭にあるからだ。気が前に出過ぎるんだ。わざの前、構を基本通リにとれ」と注意をしてくれた。
自分で焦るな、焦るなと言いきかせる。
構えを直した後なんとなく下段の蹴りが上手く受けられるようになった。
竜馬先輩の動きは柔らかく、それでいて時には鋼のような力強い動きになる。
稽古の終わりころ先生が「今日は私がみんなの組手の相手をするぞ、遠慮なくガンガンこい」道場内がいっせいに気合で湧く。
黒帯の先輩たちを相手に始める。先生が指名したのは石川先輩だった。
石川先輩は壮年部だが大会出場するらしく張り切っている。
石川先輩には僕も時々教えてもらっている。
いつも姿勢を正して胸を張って構えるのが特徴だ。むかし寸止めのある流派で稽古をしていたらしい。左足前に構え、弾むように足の運びをとる。
そこから飛び込むようしながら「オイヤー」と頭のてっぺんから出てくるような気合をかけ、左、右と正拳を出してくる。
先生が石川先輩の左右と突いてくる正拳を間合いを詰めながら胸で受けた。
“バシ”と言う音が響く。先生が大きな声で「オイシャー」を気合を入れる。
いつもながら先生の大きな身体が組手になるとなぜか一段と大きくなるように見える。
ツトム先輩がプロレスラーみたいな身体だ、と言っていたがホントそう見える。
石川先輩の突きを受けて、先生がその後、蹴りにつなげるように注意をして、その構えでは相手は必ず下段を狙ってくる、そこまで読んで工夫する稽古する事。
石川先輩の後、2~3の壮年部、女性を相手に組手を見せてくれた。
先生の組手はダイナミックに見える。
とくに相手の突きや蹴りを身体で受ける瞬間、吼えるような気合を入れる。
格好いい、凄く強く見える。
先生が組手をすると道場がいつもより数段明るくなるような気がする。
7人黒帯を相手に動いても、先生は息の乱れを全く見せなかった。
8人目に竜馬先輩が先生の前に立った。先生が嬉しそうに竜馬先輩を見る。
何故か竜馬先輩落ち着きがないように見える。
お互いに礼をかわした後、先生が「それ~こい」と声をかける。
竜馬先輩が先生の周りを軽く動き出す。
僕が組手をしている訳ではないのに緊張し、身体全体で二人の動きを見つめる。
竜馬先輩が上体、肩と腕を振るように変化させながら、軽く前の左の拳を出す。
先生が「ホレホレ」と声を掛けながら間合いを詰める。
竜馬先輩なにも出来ずに壁に押し付けられる。
みんなで竜馬先輩に声をかけて励ます。竜馬先輩首をかしげながら道場の真ん中に出る。お互いに向かいあった途端、先生がハッと動き右手{下段払いに見えた}で竜馬先輩の構えを崩しながら左の正拳を胸板に軽く決める。
思わず道場内に「オゥ~」と感嘆がもれる。先生の動きや構えに僕は感激した。
竜馬先輩が全くなにも出来ない。手も足も出ないとは、こう言う事なのかもしれない。
先生が輝いて見えた。やっと僕の番になった。
自分の両足の感覚が無かったが「さ~こい」と言う先生の合図に僕は前に出ながら「アイ~」と変な気合がでた。そのまま夢中で左右左と正拳を突く。
先生は胸を開いて肩を少し揺すりながらそのまま身体で僕の突きを受けてくれた。
僕の突きがヒットする瞬間「オレ~、オレ~」と声をかけてくれる。
左右の拳にしびれる様な感覚が走る。突きから得意技の上段回し蹴りを出すと、先生に簡単に掛け回されて、バラスを崩して転がされた。転がされたが何故か嬉しかった。
先生は、僕が夢中で出す技がヒットする瞬間間合いと角度を外していように感じた。
先生との組手が終わった後、僕は雲の上を歩いているように気持ちがフワフワした。
いつの日か先生みたいにカラテが出来る様になれたら、最高だと思った。
家に帰り母親に先生の組手を話す。母親も眼を輝かして聞いていた。
続く

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NERIMA DOJO
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